【弁護士監修】有給休暇とは?労働者の権利と正しい取得方法をわかりやすく解説
この記事の監修者
株式会社マイビジョン代表取締役 玉田響
中小・ベンチャー企業を中心に、理念設計(MVV設計)や採用戦略の構築などを50社以上支援。経営者と伴走しながら、組織づくり・人材育成に取り組んでいる。採用媒体の活用やSNS運用アドバイスでも実績あり。
「有給休暇って、どれくらい休めるの?」「会社に申請しにくい…」そう感じているあなたへ。有給休暇は、労働者に与えられた当然の権利です。しかし、その権利を正しく理解し、活用している人は少ないのではないでしょうか。この記事では、有給休暇の定義から取得方法、拒否された場合の対処法まで、あなたの疑問を徹底的に解決します。この記事を読めば、有給休暇に関する知識が深まり、安心して休暇を取得できるようになります。
目次
有給休暇とは?労働者に与えられた当然の権利
有給休暇は、労働者が心身ともにリフレッシュし、健康を維持しながら働くために法律で定められた労働者の権利です。労働基準法によって、一定期間勤続し、所定の出勤率を満たした労働者には、年次有給休暇が付与されることが義務付けられています。これは単なる休暇ではなく、労働者が日々の業務から離れて休息を取り、私生活を充実させるための重要な機会であり、ワークライフバランスを実現する上で不可欠な要素です。多くの労働者が「自分にも有給休暇を取得する権利があるのだろうか」と疑問に思いますが、その答えは「はい、あります」です。このセクションでは、有給休暇の基本的な定義、その目的、そして労働者にとってなぜそれほど重要なのかを解説し、皆さんが自身の権利を正しく理解するための一助となることを目指します。
有給休暇の定義と目的
有給休暇とは、労働基準法第39条によって定められた、労働者が賃金を受け取りながら取得できる休暇のことです。具体的には、雇入れの日から6ヶ月以上継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10労働日の有給休暇が付与されます。その後も、勤続年数や出勤率に応じて、付与日数が増加していきます。この制度の主な目的は、労働者が長期の労働によって蓄積された疲労を回復し、心身ともにリフレッシュすることにあります。これにより、労働者の健康維持を図るとともに、仕事への意欲や集中力を高め、結果として生産性の向上にもつながります。また、有給休暇の取得は、家族との時間、趣味、自己啓発など、仕事以外の活動に時間を充てることを可能にし、ワークライフバランスの実現を支援します。
なぜ有給休暇は必要?
有給休暇は、単に労働者の福利厚生のためだけではなく、現代の労働環境においてその必要性がますます高まっています。まず、労働者の健康維持という観点から、継続的な労働による心身の疲労を軽減し、燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐ効果があります。十分な休息は、集中力や創造性を回復させ、結果として仕事の質や生産性の向上に直接貢献します。また、企業側にとっても、有給休暇の取得促進は、従業員のエンゲージメントを高め、離職率の低下につながるというメリットがあります。さらに、近年推進されている「働き方改革」においても、有給休暇の取得促進は重要な柱の一つとされており、労働時間の適正化や多様な働き方の実現に向けた取り組みの一環です。法令遵守(コンプライアンス)の観点からも、企業は有給休暇の付与と取得を適切に管理する義務があり、これを怠ると法的な問題に発展する可能性があります。このように、有給休暇は労働者の健康、企業の生産性、そして社会全体の持続可能な働き方のために、必要不可欠な制度と言えます。
有給休暇の取得条件:誰が、いつから取得できる?
有給休暇が付与されるための具体的な条件(勤続期間、出勤率)について解説します。パートやアルバイトといった多様な雇用形態の労働者にも適用されるのか、付与日数がどのように計算されるのかを明確にすることで、読者の「どのような条件を満たせば良いのか」「パートやアルバイトでも取得できるのか」といった疑問を解消します。
付与されるための基本的な条件
労働基準法により、すべての労働者は一定の条件を満たせば有給休暇を取得する権利があります。この権利を得るための最も基本的な条件は、「雇入れの日から起算して6ヶ月以上継続して勤務していること」と、「所定労働日の8割以上出勤していること」の二つです。勤続期間が6ヶ月に満たない場合は、たとえ出勤率が高くても有給休暇は付与されません。また、6ヶ月以上勤務していても、出勤率が8割に満たない場合も同様です。出勤率の計算にあたっては、病気休暇や業務上の怪我による休業なども、原則として出勤したものとして扱われるため、これらの期間は不利にならないように配慮されています。
パートやアルバイトも対象?
「パートやアルバイトだから有給休暇はもらえない」と思われがちですが、そのようなことはありません。パートタイム労働者やアルバイト労働者であっても、正社員と同様に、上記の「6ヶ月以上の継続勤務」と「所定労働日の8割以上の出勤率」という二つの条件を満たせば、有給休暇が付与されます。ただし、勤務日数や時間が正社員と異なるため、付与される日数の計算方法には違いがあります。短時間労働者向けの付与日数は、その労働者の週の所定労働日数に応じて、比例計算によって定められます。
付与日数の計算方法
有給休暇の付与日数は、勤続年数によって段階的に増加していきます。まず、雇入れから6ヶ月経過時点で、所定労働日の8割以上出勤していれば、原則として10日間の有給休暇が付与されます。その後、1年ごとに勤続年数に応じて付与日数は増えていきます。例えば、勤続1年半で11日、勤続2年半で12日というように、勤続年数が増えるにつれて付与日数も増えるのが一般的です。パートやアルバイトの場合、週の所定労働日数が少ない(例えば週3日勤務など)場合は、この日数が労働日数に応じて按分計算されます。
有給休暇の付与日数:勤続年数によって変わる日数
勤続年数に応じて付与される有給休暇の日数について、詳細な表を用いて分かりやすく解説します。これにより、読者は自身の勤続年数に応じた具体的な付与日数をすぐに把握できます。また、退職時の有給休暇の扱いについても説明し、関連する疑問を解消します。
勤続年数別の付与日数の詳細
勤続年数6ヶ月から1年6ヶ月、2年6ヶ月…といった区切りで、付与される有給休暇の日数がどのように増えていくかを、法で定められた基準に沿って表形式で具体的に示します。
勤続年数別 有給休暇付与日数一覧
| 勤続年数 | 付与日数 |
|---|---|
| 6ヶ月 | 10日 |
| 1年6ヶ月 | 11日 |
| 2年6ヶ月 | 12日 |
| 3年6ヶ月 | 13日 |
| 4年6ヶ月 | 14日 |
| 5年6ヶ月 | 15日 |
| 6年6ヶ月以上 | 20日 |
※上記はあくまで一般的な例であり、個別の就業規則等により異なる場合があります。
途中で退職する場合の有給休暇
有給休暇の付与期間中に退職した場合、未消化の有給休暇がどうなるのか、買い取ってもらえるのか、といった疑問について法的な観点から解説します。一般的に、退職日までに付与された有給休暇は、退職日をもって消滅します。ただし、未消化の有給休暇がある場合、その権利は退職によって消滅するわけではなく、労働基準法上、会社に対して買い取りを請求できる場合があります。ただし、買い取りは会社の義務ではなく、就業規則や個別の合意によります。退職前に会社とよく相談することが重要です。
有給休暇の取得方法と注意点
有給休暇を実際に取得する際の手続き、会社への効果的な伝え方、そして取得にあたって注意すべき点について具体的に解説します。読者が「会社に申請しにくい」と感じる背景を踏まえ、スムーズな取得をサポートするための実践的な情報を提供します。
申請方法と、会社への伝え方
有給休暇を取得する際の申請方法と、会社への効果的な伝え方について詳しく見ていきましょう。円滑なコミュニケーションを図り、希望通りに休暇を取得するためには、事前の準備と適切なアプローチが重要です。
まず、申請方法についてですが、多くの会社では就業規則で有給休暇の申請に関するルールが定められています。申請期限(例:取得希望日の〇日前まで)、申請先(例:直属の上司、人事部)、申請方法(例:社内システム、メール、書面)などを事前に確認しておきましょう。一般的には、取得希望日の1週間前~1ヶ月前までに申請することが推奨されています。
次に、会社への伝え方です。休暇を取得したい旨を伝える際は、依頼する姿勢を大切にしましょう。単に「休みます」と伝えるのではなく、「〇月〇日(〇)から〇月〇日(〇)まで、有給休暇を取得させていただきたく、ご相談させていただけますでしょうか」のように、丁寧な言葉遣いを心がけます。
休暇の理由を伝えるかどうかは必須ではありませんが、もし伝える場合は、簡潔かつ具体的に説明すると、会社側も状況を把握しやすくなります。例えば、「家族の慶事のため」「リフレッシュして業務に集中するため」といった理由が考えられます。また、自分の業務が滞らないように、事前に引き継ぎの準備をしたり、代替担当者を決めたりする姿勢を示すことも、円滑な取得につながります。
円滑なコミュニケーションのコツとしては、忙しい時間帯を避けて相談する、上司が不在の場合はメールで丁寧に依頼する、といった配慮が挙げられます。以下に、有給休暇申請の例文を記載します。
有給休暇申請の例文
件名:有給休暇取得のご相談(〇〇部 〇〇)
〇〇部長
いつもお世話になっております。〇〇部〇〇です。
この度、私事で恐縮なのですが、〇月〇日(〇)から〇月〇日(〇)までの期間、有給休暇を取得させていただきたく、ご相談申し上げます。
休暇中は、担当業務に支障が出ないよう、〇〇さんに引き継ぎをお願いしております。また、不在中の緊急連絡先についても、別途共有させていただきます。
ご多忙の折とは存じますが、ご承認いただけますようお願い申し上げます。
何卒よろしくお願い申し上げます。
署名:
〇〇部 〇〇
取得する際の注意点
有給休暇をスムーズに取得し、会社との不要なトラブルを避けるためには、いくつか注意しておくべき点があります。自身の権利を理解しつつ、会社の状況にも配慮することが大切です。
- 時季指定権の理解: 有給休暇の取得時期については、原則として労働者が指定できます(時季指定権)。しかし、事業の正常な運営を妨げる場合においては、会社は労働者の指定した時季を変更することができます。そのため、会社の繁忙期や、他の社員の休暇と重なって業務に支障が出る可能性がある場合は、事前に相談し、会社の指定する時季に調整する柔軟性も必要になることがあります。
- 余裕を持った申請: 取得希望日が決まったら、できるだけ早く会社に伝え、承認を得るようにしましょう。直前や当日の申請は、会社側で業務の調整が難しく、希望通りに取得できない可能性が高まります。最低でも1週間前、可能であればそれ以上前に申請することが望ましいです。
- 連続取得・長期取得の場合: 連続して数日間、あるいは長期間の有給休暇を取得する場合、業務への影響が大きくなる可能性があります。事前に上司や関係部署と十分に相談し、引き継ぎ計画を綿密に立てることが不可欠です。長期休暇の場合は、会社によっては承認に時間がかかる場合や、特別な手続きが必要な場合もあります。
- 取得理由の伝え方: 有給休暇の取得理由を会社に伝える義務はありませんが、伝え方によっては円滑な取得につながることがあります。例えば、「リフレッシュして業務効率を上げたい」といった前向きな姿勢を示すことで、会社側の理解を得やすくなることも。ただし、無理に理由を説明する必要はありません。
- 会社の就業規則を確認: 有給休暇の申請方法や取得に関するルールは、会社ごとに異なります。必ず自社の就業規則を確認し、定められた手続きに従って申請を行いましょう。不明な点があれば、人事部や担当者に確認することをおすすめします。
有給休暇の取得を拒否されたら?
会社から有給休暇の取得を拒否された、あるいは取得しづらい状況にあるという悩みに対応するため、本セクションでは会社が有給休暇の取得を拒否できる正当な理由と、それが不当な拒否である場合の具体的な対処法を法的な観点から詳しく解説します。弁護士監修のもと、読者が自身の権利を守るための具体的なステップを示します。
会社が有給休暇を拒否できるケース
会社が労働者の有給休暇取得申請を拒否できるのは、労働基準法第39条第5項に定められた「時季変更権」を行使する場合に限られます。この権利は、休暇の取得によって「事業の正常な運営を妨げるとき」にのみ認められます。例えば、繁忙期で他の従業員も休暇を取得しており、担当業務をこなせる人員が不足する場合や、特別なプロジェクトの締め切り直前で、その担当者である従業員が休暇を取得するとプロジェクトの進行に重大な支障が出る場合などが考えられます。ただし、時季変更権は無制限に行使できるわけではなく、会社側は拒否する正当な理由を具体的に説明する義務があります。単に「忙しいから」といった漠然とした理由では認められないことがほとんどです。
拒否された場合の対処法
不当に有給休暇の取得を拒否された場合、労働者は泣き寝入りする必要はありません。以下のステップを踏むことで、自身の権利を主張し、問題を解決に導くことができます。
- 会社との交渉: まずは、なぜ有給休暇の取得が拒否されたのか、その理由を会社に具体的に確認しましょう。もし会社側の理由が不当であると感じた場合は、代替の休暇日を提案するなど、会社と話し合いの場を持つことが重要です。
- 労働基準監督署への相談: 会社との交渉で解決しない場合や、会社が説明を拒む場合は、所轄の労働基準監督署に相談することができます。労働基準監督署は、労働基準法に関する法令違反について調査し、必要に応じて会社に対して是正勧告を行います。匿名での相談も可能です。
- 弁護士への相談: より法的な観点からのアドバイスや、会社との交渉を有利に進めたい場合、あるいは訴訟なども視野に入れる場合は、労働問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は、個々の状況に応じた最適な解決策を提示し、法的な代理人として会社との交渉や法的手続きをサポートしてくれます。
弁護士監修による法的観点からの解説
知っておきたい!有給休暇に関するその他の疑問
有給休暇について、基本的な知識は身についたでしょうか。ここでは、さらに一歩進んだ疑問点や、具体的なケースでどうなるのか、といった応用的な内容について解説します。時季変更権、休暇の買取や繰り越し、病気・ケガで休む場合など、読者が抱きがちな様々な疑問を解消し、有給休暇への理解を深めていきましょう。
有給休暇の時季変更権とは?
労働者には、原則として希望する時期に有給休暇を取得する権利があります。しかし、会社側には「時季変更権」というものが認められています。これは、労働者が指定した時季に休暇を取得されると、事業の正常な運営に支障が生じる場合に限り、会社がその時季を変更するよう指示できる権利です。ただし、この権利は無制限に行使できるわけではなく、具体的な支障が生じることを会社側が証明する必要があります。例えば、部署全体が同時に休暇を取得しようとした場合などが該当し得ます。
有給休暇の買取は違法?
「有給休暇を買い取ってもらえないかな?」と考える方もいるかもしれませんが、原則として、労働基準法では有給休暇の買い取りは認められていません。有給休暇は労働者が心身の休息のために取得する権利であり、金銭に換えることは想定されていません。しかし、例外として、退職時に残っている有給休暇については、会社が買い取ることは可能です。また、本来買い取りが認められないケースでの買い取りを申し出る、あるいは強要することは違法となる可能性がありますので注意が必要です。
有給休暇の繰り越し
せっかく付与された有給休暇も、使いきれずに期限が来てしまうことがあります。では、余った有給休暇は翌年に繰り越せるのでしょうか。結論から言うと、有給休暇は法律上、翌年に繰り越すことが可能です。ただし、繰り越せるのは、あくまで「本来の付与日数」であり、会社が独自に「1年限り有効」などと定めている場合は、その会社のルールに従うことになります。繰り越された有給休暇は、翌年度の付与日数とは別に、2年間有効となります。
病気やケガで休む場合
病気やケガでどうしても仕事に行けない場合、有給休暇を使うべきか、それとも他の制度を利用すべきか迷うことがあります。病気やケガで休む際に有給休暇を利用することはもちろん可能ですが、その場合、有給休暇の日数が消費されます。一方、一定の条件を満たせば、健康保険から「傷病手当金」という給付金を受け取ることができます。傷病手当金は、休業中の生活保障を目的としたもので、有給休暇とは別に利用できる制度です。どちらを利用するのが有利かは、個々の状況(給与、休暇の日数、休業期間など)によって異なります。まずは有給休暇の日数を確認し、必要であれば傷病手当金などの社会保険制度についても検討すると良いでしょう。
まとめ:有給休暇の権利を理解し、賢く活用しよう!
この記事を通じて、有給休暇が労働者にとって不可欠な権利であり、心身のリフレッシュやワークライフバランスの実現にどれほど重要であるかをご理解いただけたことと思います。取得条件、申請方法、そして万が一の際の対処法まで、有給休暇に関する正しい知識を身につけ、安心して休暇を取得できるようになることが、私たちの目指すところです。自身の権利を正しく理解し、不当な扱いを受けた場合に適切に対処できるようになることで、より健やかな働き方を実現しましょう。また、企業によっては、従業員の有給休暇取得を促進するための様々な取り組みが行われています。こうした事例も参考にしながら、ご自身の権利を最大限に活かし、充実した日々を送ってください。
有給休暇の権利を最大限に活かすために
これまでに解説してきた有給休暇の権利、取得するための条件、具体的な取得方法、そして万が一、会社との間で問題が生じた場合の対処法について、改めて確認しておきましょう。有給休暇は、労働者が心身ともに健康で、意欲的に働き続けるために不可欠な制度です。これを有効活用することは、単に休むということだけでなく、自身の生活の質を高め、仕事へのパフォーマンス向上にも繋がります。ワークライフバランスを重視し、計画的に有給休暇を取得することで、仕事とプライベートの調和を図り、より充実した人生を送りましょう。ご自身の権利をしっかりと理解し、自信を持って有給休暇を申請・取得してください。