建設業の経営理念の作り方と事例|未来を築く指針
建設業で事業を営むうえで、何を大切にし、どこへ向かうかを明確に示す経営理念は欠かせない存在です。しかし、忙しい日常業務のなかで体系的に策定する機会がなく、作り方や活用事例を知りたいと考える経営者の方も多いでしょう。
そこで本記事では、建設業に特化した経営理念の重要性や策定ステップ、さらに浸透の方法までをわかりやすく紹介します。
経営理念とは?建設業での役割

建設業の経営陣が理念を構築する際には、単なるスローガンにとどまらず、現場の安全管理や地域社会への貢献など、実務に直結する考え方を反映させることが大切です。ここでは、経営理念の基本や建設業ならではの特徴を捉えながら、企業理念との関係性について整理します。
ミッション・ビジョン・バリューを理解する
経営理念とは、ミッション・ビジョン・バリューを総称したものです。ミッションは会社の使命を指し、「建設を通じて人々の暮らしを支える」「未来のインフラを安全に築く」など、世の中に対して果たすべき役割を明確化します。
ビジョンは企業が目指す将来像で、たとえば「持続可能な都市づくりのリーダーとなる」など、長期的ゴールを見据えます。
そしてバリューは守るべき価値観や行動指針を定義し、「安全最優先」「誠実な施工」「顧客との信頼構築」などが挙げられます。これらを総合的にまとめた言葉こそが経営理念であり、建設業の現場で従業員が判断や行動をするときの拠り所となるでしょう。
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建設業界の特徴と経営理念の重要性
建設業界は、長期にわたり大規模なプロジェクトを手がけるケースが多いことや、複数の協力会社や職人と連携しながら工期と品質を管理する特徴があります。そのため、一貫した価値基準や方針がなければ、現場ごとに取り組み方がばらつく恐れがあります。
加えて、安全管理やコンプライアンス、環境への配慮など、社会的責任が大きいのも建設業の特徴です。そこで経営理念をしっかりと定めることが、企業としての姿勢を示し、従業員や協力会社、顧客との間に信頼関係を築くうえで欠かせない要素となるのです。
企業理念との関係性
「経営理念」と「企業理念」はほぼ同義語として扱われるケースもありますが、同じ意味合いを持つ場合が多いです。いずれもミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を軸にして企業活動を方向づけるものといえます。ただし、企業理念がより抽象的であるのに対し、経営理念は現場での行動指針に落とし込みやすいよう、具体的に示されることが多いです。
建設業の場合は「安全第一」「地域社会との共存共栄」など、実際の業務に関わる内容を盛り込むと、従業員が腹落ちしやすく、現場のモチベーションアップにもつながります。
建設業の経営理念が必要な理由
経営理念があると組織の一体感や信頼が高まり、さまざまなメリットを生み出します。特に建設業では、複数の関係者が関わるプロジェクトにおいて、理念を共有する意義が非常に大きいです。ここでは、経営理念を明確に持つことがなぜ建設業にとって重要なのかを解説します。
組織力強化とリスク管理への貢献
建設業では、安全確保が最優先事項です。しかし、業務が多岐にわたり、工事現場ごとに状況が異なるため、管理体制のばらつきやミスがリスクとなります。経営理念で「誠実なものづくり」や「安全第一」を強調すると、従業員は意識を統一しやすくなり、リスク管理にも役立ちます。
さらに、プロジェクトごとに異なる職人や下請け会社とも、理念を介して共通認識を持つことで、組織全体の連携がスムーズになります。結果として、不慮の事故やトラブルを防ぎ、安定した施工品質を保てるでしょう。
人材確保と技術継承につながる要素
近年、建設業界では人材不足や技術の継承が課題とされています。若い世代の就労意欲を高めるためには、企業として「どんな社会貢献を目指し、どんな働きがいを生み出すのか」を明確に伝えることが効果的です。
そこで経営理念を掲げ、「地域とともに街づくりを進める」「先端技術を活用し持続可能な建設を推進する」などの姿勢を表明すれば、自社の魅力をアピールできます。採用段階から企業の方向性を示すことで、自社に共感する人材が集まりやすくなり、結果として技術の継承にもプラスの影響が生まれます
ステークホルダーとの信頼構築
建設業では、発注者(施主)、行政機関、地域住民など、多様なステークホルダーとの協力が不可欠です。そのため、企業がどのような考え方で事業を行っているのかを明確にし、社会に対する責任をしっかりと示す必要があります。
経営理念に「地域住民とのコミュニケーションを大切にする」や「高い品質と安全を常に追求する」などを盛り込むことで、外部から見ても信頼しやすい企業として映ります。発注者や行政からも評価されるようになれば、大型案件の受注につながる可能性が高まり、企業の成長を後押しする要因ともなるでしょう。
経営理念を策定する手順
経営理念は企業の根幹をなすものであるため、安易に作るのではなく、組織内外の声を取り入れながら手順を踏んで策定することが大切です。ここでは、建設業の現場感覚を大切にしながら、経営理念を作り上げるためのステップを紹介します。
自社の目的と価値観を洗い出す
まず取り組むべきは、自社が何のために事業を行っているのかという「存在意義」を深く掘り下げることです。建設業の場合、「安全なインフラを提供して社会を支える」や「地域の雇用を創出し、街づくりに貢献する」といった目的が考えられます。
このステップでは、経営トップだけでなく、従業員や現場管理者、さらに顧客や協力会社の声を聞くと、多角的な視点を得ることができます。自社の歴史や創業者の思い、そして現在抱えている課題も含めて整理し、自社が大切にしたい価値観を言語化しましょう。
現場と連動したビジョンの設定
自社の目的や価値観が見えてきたら、次はビジョンを設定します。ビジョンは「将来こうなりたい」という方向性を示すもので、建設業ならば「最先端技術を活用し、持続可能な建築を実現する企業へ成長する」などが例として挙げられます。重要なのは、現場の視点を盛り込み、理想と実態のギャップを極端にしないことです。
たとえば「全現場でデジタルツールを活用して品質管理を高度化する」など、具体性を帯びた目標に落とし込めば、従業員がビジョンを日常的に意識しやすくなります。無理のない範囲で挑戦的な目標を掲げ、組織全体の成長意欲を高めましょう。
行動指針を明確化して実行力を高める
ビジョンが確立したら、それを支える行動指針(バリュー)を設定します。建設業の例としては、「顧客とのコミュニケーションを第一に考える」「現場の安全対策を徹底し、ゼロ災害を目指す」「環境に優しい施工方法を積極的に採用する」といった具体的な行動基準が挙げられます。
この行動指針は社員の判断や行動をガイドし、施工品質や安全管理の面で組織全体を統一する重要な役割を果たします。さらに、役職や部署ごとに目標を設定する際にも行動指針が基盤となるため、経営理念の実効性が高まるのです。
建設業の経営理念【具体事例】

ここでは経営理念建設業に特化した三社の実例を取り上げます。各社は独自のミッションを掲げ、社員や社会への貢献を追求する姿勢が強みです。
西武建設
西武建設は「社会に信頼され、喜びを共有する活力ある企業へ」を掲げ、技術力や安全性を軸に多方面で価値を発揮しています。社員や株主、顧客との喜びを共有するため、向上心と革新性を大切にしながら、地域社会へも持続的な貢献を図る姿勢が特徴です。
主体的な判断力や順法精神を高める取り組みを進めることで、さらなる成長と地域の未来づくりに寄与すると考えられます。
中野建設
中野建設は「ともに未来を造ろう」を合言葉に、安全と品質を最優先に取り組んでいます。社員同士の尊重と多様性の受容を重視し、全員が学ぶ姿勢を習慣化する体制を構築中です。
施工コストを抑えながらも、シンプルな言葉で先を見据える指針を掲げ、顧客の満足と地域社会への貢献を実現します。建設業として培われた技術力を最大化し、よりよい建物づくりに向けて邁進する姿が印象的といえます。
若築建設
若築建設は「内外一致同心協力」を根幹に据え、官民や地域を問わず同じ目的へ向かって力を合わせる姿勢を大切にしています。
創業期から築港事業など大規模インフラを手掛けてきた実績を背景に、「品質と安全」を柱とする施工を徹底し、社会に信頼される企業を追求中です。官民連携や地域との協働により、幅広い領域で建設業の価値を高めるとともに、新たな課題解決にも積極的に取り組んでいます。
建設業の経営理念【弊社の事例】
弊社では経営理念建設業における組織改革を支援するため、社員と経営層が一体となる理念設計を行いました。具体的には離職率低減を見据えた人事評価制度やブランド要素の見直しを同時進行させ、新卒採用でも多くの学生から応募を得る成果を実現しました。
幹部メンバーの意識改革と判断基準の明確化により、社内コミュニケーションが活性化し、売上向上への基盤も構築しています。この取り組みには、経営者が現場を巻き込む姿勢と理念を軸にした評価制度の運用が不可欠です。
参照:【企業ブランディング実績】三栄工業株式会社様〜幹部メンバーの意識が変わり、初めての新卒採用で多くの学生から選ばれるようになった理由とは〜
経営理念を浸透させる方法とポイント
優れた経営理念を策定しても、それが実際の現場に根づかなければ意味が半減します。特に建設業のように多くの協力会社や職人が関わる現場では、理念を共有し、実行へと結びつけるための仕組みづくりが重要です。ここでは、理念を社内外に浸透させるポイントをまとめます。
研修と評価制度への組み込み
経営理念を浸透させるには、新入社員や現場管理者向けの研修プログラムを設け、理念を学ぶ時間を確保することが効果的です。たとえば「現場安全研修」と絡めて、企業がなぜ安全を最優先しているのか、理念との関連性を説明すると理解度が上がります。
さらに評価制度にも経営理念の要素を反映させれば、従業員が日々の業務で理念を意識するようになるでしょう。たとえば「安全管理の徹底度」「顧客満足度の向上」などを評価項目に組み込み、それをクリアすると昇給や表彰につながる仕組みがあれば、理念の実践が行動に直結します。
コミュニケーションツールの活用
部署や現場が異なるメンバー同士で、理念を共有するためにコミュニケーションツールを活用する方法もあります。社内SNSやプロジェクト管理ツールなどで、経営理念に関連した活動報告や成功事例を共有する場を設けると、各現場での取り組みを見える化できます。
特に建設現場では、同じプロジェクトでも職種や専門領域によって意識の差が出やすいため、随時コミュニケーションできるプラットフォームがあると便利です。また、経営陣が定期的に理念について発信したり、社員の意見を収集したりすることで、組織全体の意識が統一されやすくなります。
リーダーシップと現場の共創
経営理念を組織に根づかせるには、トップの強いリーダーシップが不可欠です。経営者や役員自らが現場を訪れ、職人や従業員と対話しながら理念の大切さを伝えることで、言葉に説得力が増します。一方、現場側も理念を「押し付けられたもの」と捉えるのではなく、自分たちの取り組みを通じて理念をどう実現できるかを考える姿勢が重要です。
定期的な意見交換やプロジェクトごとの振り返り会を開き、理念を共創しながらアップデートしていく体制を整えましょう。これにより、社員一人ひとりが自分ごととして行動し、結果的に施工品質や安全管理の水準が高まります。
関連記事:経営理念浸透の成功戦略!5つの具体的なステップを紹介!
建設業の経営理念で未来を築くために

建設業界は社会インフラを支え、景気や技術革新などさまざまな外部要因の変化を受けやすい分野といえます。そのような環境下で持続的に発展していくためには、時代に合わせて柔軟に経営理念を見直し、実践していくことが求められます。ここでは、理念をさらに発展させるための視点を紹介します。
定期的な見直しと柔軟なアップデート
経営理念は一度策定したら終わりではなく、市場環境や技術革新、社会からの要請に応じて見直す必要があります。建設業では、たとえばICT施工やBIM/CIMといった新技術の導入が進み、施工プロセスに大きな変化が生じています。
こうした流れに合わせて「デジタル技術を活用し、業務効率と安全性を向上させる」などの新要素を加えることで、理念に時代性を持たせることが可能です。ただし、企業の根幹を揺るがすような大幅修正は避け、基本方針を維持しつつ柔軟にアップデートするアプローチが望ましいでしょう。
サステナブルな視点の取り入れ方
環境問題やSDGsが注目を集める今、建設業においてもサステナブルな取り組みが求められます。そこで経営理念に「再生可能エネルギーの活用」「廃棄物の削減」「自然環境との調和」といった目標を盛り込み、施工方法や資材調達を見直す企業が増えています。
たとえば木材やリサイクル素材を活用した建築を推進したり、現場でのCO2排出を低減する技術を開発したりするなど、具体的アクションを伴うことでサステナブルなブランドイメージを構築できます。未来をつくる建設業だからこそ、地球環境を守る理念を取り入れる意味は大きいです。
経営理念を軸に新たな事業領域へ挑戦
経営理念が明確であれば、既存の土木や建築分野だけでなく、新たな事業領域にも挑戦しやすくなります。たとえば、老朽化したインフラの維持管理や、災害に強いまちづくり関連のコンサルティングなど、建設企業ならではの強みを活かして多角化を図るケースも考えられます。
理念に「人々の安全と安心に貢献する」という項目を掲げている企業であれば、防災技術の開発や地域防災訓練の支援へと事業を広げることも自然な流れです。理念を軸とした事業拡大は社内外の理解を得やすく、新規プロジェクトの立ち上げをスムーズにします。
まとめ
経営理念は、建設業の企業が安全第一や地域貢献といった価値観を共有し、組織全体の行動を統一する重要な指針です。ミッション・ビジョン・バリューを明確にし、現場やステークホルダーとの連携を強化すれば、人材確保や社会的信用にも大きく寄与します。
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